京都地方裁判所 昭和43年(ワ)711号 判決 1971年2月23日
原告
株式会社ニチエ染色
代理人
猪野愈
被告
株式会社富士銀行
代理人
吉川幸三郎
桑嶋一
主文
被告は、原告に対し、別紙物件目録記載物件につきなされた京都地方法務局下京出張所昭和二七年七月五日受付第一四、六六四号根抵当権設定登記につき、原因昭和四三年四月一日確定債権全額(元本債権金五、八三九、六七五円、延滞利息債権金四、一八八、五〇五円)代位弁済、権利者原告なる根抵当権移転附記登記手続をせよ。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実《省略》
理由
下記一、二の事実は当事者間に争がない。
一、訴外室谷染色工業株式会社(訴外会社)は、その所有の別紙物件目録記載物件(本件物件)につき、被告との間に、昭和二七年五月三一日手形取引契約の設定契約、債権極度額金三千万円、損害金日歩五銭とする根抵当権設定契約を締結し、同年七月五日京都地方法務局下京出張所受付第一四、六六四号をもつてその旨の根抵当権設定登記を経由した。
二、その後、本件根抵当取引は終了し、訴外会社は、昭和四一年一二月一二日現在、被告に対し、本件根抵当権の被担保債務として、元金六、八〇四、六七五円と延滞利息債務を負担していた。訴外会社は、昭和四二年四月二四日、被告に対し元金支払分として金九六五、〇〇〇円を支払つた。
根抵当権設定契約において債権極度額が定められ、その旨の登記がなされている場合、債権者は、債権確定後の利息其他の定期金についても、債権確定前のそれと同じく、極度額の範囲内で優先的効力を主張しうると解するのが相当である。
<証拠>を綜合すれば、原告は、訴外会社との間の代位弁済契約にもとづいて、被告に対し、原告主張のとおり、昭和四一年一二月一二日から昭和四三年四月一日までの間一七回にわたり、本件根抵当権の被担保債務元金計金五、八三九、六七五円および延滞利息計金四、一八八、五〇五円総計金一〇、〇二八、一八〇円を支払い、本件根抵当権の確定被担保債務を完済した事実を認めうる。<証拠>のうち、右認定に反する部分は採用しない。
<証拠>によれば、原告は、昭和四〇年四月一日、訴外会社からその所有の本件物件全部を賃借し、現在に至るまで引続きこれを占有使用している事実を認めうる。
抵当権設定登記後の抵当権の目的物の賃借権者は、民法第五〇〇条にいう「弁済ヲ為スニ付キ正当ノ利益ヲ有スル者」に該当し、抵当権の被担保債権の弁済に因りて当然債権者に代位するものと解するのが相当である。けだし、右賃借権者は、賃借権を競落人に対抗しえないから、物上保証人、抵当権の目的物の第三取得者と同じく、競売により抵当権の目的物上の権利を失う地位にある者であるからである。
したがつて、原告は、民法第五〇一条により、訴外会社に対する求償権の範囲内において、本件根抵当権の被担保確定債権全額(元本債権金五、八三九、六七五円、延滞利息債権金四、一八八、五〇五円)および本件根抵当権を取得した。
根抵当取引終了後に根抵当権の被担保確定債務の代位弁済がなされた場合、根抵当権を普通抵当権に変更登記をした上で移転登記をすることなく、根抵当権の登記のまま移転登記をなしうると解するのが相当である。
したがつて、被告は、原告に対し、本件物件につきなされた京都地方法務局下京出張所昭和二七年七月五日受付第一四、六六四号根抵当権設定登記につき、原因昭和四三年四月一日確定債権全額元本債権金五、八三九、六七五円、延滞利息債権金四、一八八、五〇五円)代位弁済、権利者原告なる根抵当権移転附記登記手続をする義務がある。
よつて、原告の被告に対する本訴請求は正当であるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。(小西勝)